【コーヒー生産者の現状 in ラオス】一年越しの衝撃的なストーリー
プーワンさん
家計調査とは、コーヒー生産者に昨年の収入と支出をインタビューするもので、
家計に対するフェアトレードの恩恵を測ることが目的。
そしてこの日は、コーヒーの生産をしているセットコット村へ。
セットコット村は、ぼく自身昨年のスタツアでも訪れていた。
また同じ村で調査できるというのは、家計の変化を知るために大事なことだ。
去年家計調査をしたのは、プーワンというお母さんだった。
彼女は村長にアラビカ種ティピカというコーヒーを一般的な価格より低い価格で村長に販売していた。
そのことに対し、プーワンさん自身は、
「価格は品質をもとに決定しているし、村長は仲買人が買いに来ない時に、代わりに買ってくれる。」
と答え、村長を信頼しているようだった。
そのため、「ここの村長怪しくないか?」なんて彼女に言うことはできず、モヤモヤした気持ちで村を後にしたのを覚えている。
そしてまた今年、彼女と話をすることができる。
そこには、楽しみの他に、何か使命感のようなものがあった。
衝撃の事実
学生団体メンバーの家計調査を横で聞いていると、どうやら今年は仲買人に売っているそう。
値段も昨年を上回っていた。
それを確認し、ほっとした気持ちで家計調査の続きを聞く。
メンバーは家計調査の質問項目を聞き終え、様々な質問を投げかけた。
最後に、一人の学生が「なぜ仲買人に売ってるの?」と尋ねたところ、
プーワンさんから「仲買人の方が支払いが早いから。」という答えが帰ってきた。
ここで少し解説を。
コーヒー生産者のコーヒーの売り先は、主に生産協同組合と仲買人の2つある。
一般的な生産協同組合は、まず生産者からコーヒーを集めて、それを輸出した後に取引先からお金が入るため、生産者個人に対する支払いは遅れてしまう。
収穫は早くて10月頃から始まるが、支払いは翌年の6月くらいだそう。
それに対して、仲買人はコーヒーをその場で購入してくれるため、生産者はすぐに現金を手にすることができる。
つまり、収穫開始の10月に収入を得られることになる。
そのため、生産者は全てのコーヒーを生産協同組合に販売するのではなく、仲買人にも販売し、現金を調達している。
プーワンさんもどうやら、早めにコーヒーを販売して、現金をすぐに手に入れたいそうだった。
プーワンさんからの答えを聞いて、その学生が口を開いた。
「それならATJに売れればいいのにね。前払い制度があるから。」
ATJとは日本の輸入会社のこと。
生産協同組合を通して ATJにコーヒーを売ることができれば、収穫前の8月頃に収穫予定量の70%ぶんを前払いによって受け取ることができる。
その学生の発言は、これを踏まえての発言だった。
確かにATJに販売できれば、10月に仲買人に売るタイミングよりも2ヶ月早い、8月に収入が入る。
しかし、学生の発言を通訳が翻訳してプーワンさんに伝えたところ、なにやらプーワンさんと通訳が話し込んでいる。
通訳にどうしたのか尋ねたところ、どうやらプーワンさんはATJの前払い制度について知らなかったと言うではないか。
ATJの前払い制度について初めて知ったプーワンさんは、嬉しそうに「それならぜひATJに売りたい!」と笑顔で答えた。
一方で生徒側は村長を責め、通訳に質問をぶつけた。
「なぜ、前払い制度について教えなかったのか!?」
しかし、通訳は涙声に「なぜかはわからない。でも、彼女は前払い制度について知り、新たな利益を受けれる可能性ができた。そういう結果だ。」と言う。
そのよそで、プーワンさんと村長が話している。
二人は笑顔だが、よそよそしいというか、苦虫噛み潰したような顔。
彼女らのラオス語が聞き取れないのが、悔しい。
各村からのATJへの拠出量は決まっている。
セットコット村からの拠出分は、すでにプーワンさん以外で埋まっていたため、村長はわざわざ彼女に伝えなかったのかもしれない。
しかし、そうは言っても、前払い制度を知らなかったと言うのはどうかと思う。
その制度を知っていれば、彼女もそこに売りたいと村長と交渉することができるし、それによって売り先が変われば、自分が育てるコーヒーの種類も変わる。家計を支えるための戦略が変わるわけだ。
しかし、彼女はその可能性が閉ざされていた。
しかし、むやみに村長だけを責めることはできないのかもしれない。
ATJはこの事実を知っているのだろうか。
前払い制度が一部の生産者だけの占有的な恩恵となっていては、フェアトレードとは言えない。
とにかく、今回のことは驚きを隠せなかった。
前回のスタツアから一年以上経っている。
その間、彼女は前払い制度のことを知らなかった。
自分たちが去年伝えるチャンスがあったのにもかかわらずだ。
今回もまた、遺恨を残したまま村を出ることになった。
しかし、幸いにもぼくはまたここに戻ってくることができる。
ポップカンマイ、と言って彼女と別れた。
また、彼女に会いにこよう。
家計調査の後。 一番右がプーワンさん
家計調査の意味
そして今一度、家計調査の意味を考え直してみる。
ぼくたちは「家計調査」という名前からして、それを生産者から学生への一方的な情報の伝達だと思いがちだ。
しかし、それでは生産者側にはメリットはなく、ただただ時間を割かれるだけ。
しかし、今回は前払い制度という、生産者が知らない情報を提供することができた。
学生側も、調査をもとに生産者が持っていないような情報を提供する、それでこそWin-Winな関係だと言える。
「フェアトレード」という言葉が表すのは、何も公平な金額を提供するということだけではない。
生産者と消費者が「対等な」立場にたつ、という意味での「フェア」もある。
フェアトレードを学ぶものとして、そのことを考慮してなかったのは、恥ずかしいことだった。
しかし、同時に希望もあった。
ドリプロの学生はこのスタツアで一人の生産者の運命を変えた。
セットコット村のプーワンさんはみんなとの家計調査があったおかげで、ATJの前払い制度を知った。
生産者の現状を変える力が学生団体ドリプロにはある。
まとめ
スタツアでのこの体験は、自分にとって大きいものでした。
というのも、末端の生産者とその上部の村長や組合の間に起こる「情報の非対称性」がいかにして起きるのか、というテーマに関心が湧いたからです。
それは故意に起こるのか、それともなんらかの不徹底によって起こるのか。
これからのぼくの調査の1つの観点にしたいです。
最後までおつきあいいただきありがとうございました。
そして、ブログの途中からいきなり、「〜です」みたいな口調から「〜だ」みたいな口調になって、すいませんでした(笑)
それでは、また!